Polarisの創作部屋

𝒫ℴ𝓁𝒶𝓇𝒾𝓈の創作詩

感じる海月(クラゲ)

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宇宙の始まる前にはなにがあったの?

クラゲがいたんだよ。

それは大きいの?

それとも小さいの?

大きいかもしれないし、大きくないのかもしれない。

小さいかもしれないし、小さくないのかもしれない。

そのクラゲさんのお名前は?

クウ」という名前だよ。

くう、くう、素敵なお名前ね。

ほんとうは名前なんていらないんだ。昔の人は「クウ」のことを「」って呼んでいたくらいだからね。

なんでお名前を変えたの?

」という言葉の響きが気に入らなかったのと、その呼び方だと矛盾が生まれるからだよ。

くうはどうやって宇宙を創ったの?

クウ」は宇宙を創ったりなんかしなかった。ただ何かを感じただけなんだ。

感じただけ?

そう、その通りだよ。

何を感じたの?

それは「クウ」にしかわからないことだよ。

不思議なことね。

でも、君も似たようなことを経験しているはずだよ。

かくれんぼをして、誰にも見つからない場所でうっかり眠りにつく。

気がつくと辺りは真っ暗。

こわくて、こわくて立ち上がれない。

「お父さん!」

「お母さん!」

声にならない叫び。

君はそのとき、強く何かを感じている。

遠くから聞き馴染みのある、あたたかい声が聴こえる。

君はお父さんとお母さんに抱きしめられる。

ほら、君が感じたからお父さんとお母さんは君の世界に現れたんだ。

クラゲの「クウ」はふと何かを感じた。すると宇宙はできた。

でも、変だわ。学校では「カミ」が宇宙を創ったって先生が教えているもの。

昔の人たちは地球の周りを太陽や他の天体が廻っていると信じて疑わなかった。

だけどね、それを信じている人は今は殆どいない。

だから、先生が教えていることが何もかも正しいわけじゃないんだ。悲しいことに。

そうなんだね。でも、宇宙ができてからくうはどうなったの?

クウ」はいつでも、どこでも、今、ここで、その長い触手を光らせて踊っているんだ。

それはどうして?

クウ」は宇宙ができるまで、ずっとひとりぼっちで寂しかったから、喜んでいるんだと思うよ。

わたし、くうにあってみたい。

会ってどうするの?

わたし、くうの頭をなでてあげたいの、それとありがとうって。

どうすればあえるかしら?

とても、簡単だよ。でも、とても、難しいよ。

簡単なのに難しいの?

そうだよ、この世界は一番簡単なことが一番難しいように出来ているからね。

わたし、お空が暗くなるまでには帰らなくちゃならないから、そんなに遠くまであいに行けないわ。

距離なんかは問題じゃないよ。

近くにいるの?

クウ」は君の最も遠いところにあるとともに、君の最も近いところにあるとも言える。

なぞなぞかしら?

言葉で説明するのは困難なんだよ。ただ簡単な方法は思いだすってことだよ。

思いだす?

君はクラゲの「クウ」そのものなんだ。いいかい、「クウ」の一部っていう意味じゃない、そんなふうに受け止めちゃいけない。君は生まれてからも、生まれるまえも、死んでからも、ずっと「クウ」なんだよ。

わたしには、お父さんとお母さんからつけてもらった立派な名前があるのよ。それをとても気に入っているわ。名前がふたつあると不便じゃないかしら。

名前なんてほんとうはどうでもいいんだよ。あくまで、便宜的なものだから。

どうすれば思いだせるの?

信じることだよ。私は私であると同時に、宇宙より前から存在している海月の「クウ」なんだ。そう強く信じ抜くこと。それができれば、君は今すぐにでも「クウ」に会えるよ。

くうはわたしのことを歓迎してくれるかしら?だってお母さん髪をとかしてくれなかったから。それにお洋服も着替えてないし。

クウ」は君を宇宙一美しいと感じているよ。ぴんと張った触手を光らせてとびっきり踊るんだ。

瞬間と永遠を織り合わせた絵巻物は綴られる、君は君だけの物語を紡ぐと同時に宇宙そのものの物語も同時に紡ぐことができる。